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世界一周畳の旅
-その4 アラビアンナイト 空飛ぶたたみ 山口 昌伴 ◆「畳み」と「畳」 いまどき中近東の空は忽然ブッシュ花火が上がったり、人工慧星(ミサイル類)が飛び交ったりして、危なくてしょうがない。が、千夜一夜物語:『中近東の夜』(アラビアンナイト)の頃は、魔法のカーペットが翔(と)び交(か)っていた。 カーペットの語源は中世ラテン語carpetiaで、厚い羊毛布地を云ったが、いまや敷きつめの絨毯(じゅうたん)、毛氈(もうせん)に、置き敷きのRug=マットから床に敷くものならなんでも―テニスコートの人工芝生(ローン)までをカーペットと云う。 その共通項は巻いたり、畳んだりする床(ゆか)の敷物である。 我が国の床坐文化の象徴「畳」も、畳床が厚い方がエライ、ということになって、とても折り畳めなくなってしまったが、もともとは床の敷物で、畳めたから畳みと名詞化したものである。そこで私は、昔どおりの畳めるたたみを「畳み」と書き、今に続く畳めんたたみは商品名表示らしく「畳」と書き分けることにしている。そう見ると、人工芝生までカーペットなら畳める「畳み」もカーペットの一類だと云い張れる。そこで標題が「空とぶ畳み」と相成った次第である。 ◆中世の空から鳥瞰すると さて、空とぶ畳み(カーペット)にうち乗って、中世の空にあがって眼下を鳥瞰すれば、極東の日本では、まさに莚(むしろ)か茣蓙(上等の莚)、朝鮮半島では貴人の茣蓙が置き敷きの厚い「畳めんたたみ」に進化しつつあり、中国ではまだ床坐式起居様式だったから、一般には莚を用い、貴族たちは緞通(毯子(ダンツ)の当て字で絨緞に同義)の美を競っていた。インド・パキスタン・ペルシャから北アフリカを辿(たど)ると、遥か西方モロッコまで沙漠地帯は毛氈(フェルト)や絨緞(カーペット)の世界である。中国では緞通といったが、中国の中世は西安や北京を中心とする河北の乾燥地帯、だから半沙漠といってよいだろう。 ではなぜこの沙漠、半沙漠地帯では森林地帯の西欧とちがって椅子座せず床坐で敷物(カーペット)だったのだろうか。 それは海水浴場で実体験をしてみればわかる。海浜の砂浜は帯状の沙漠といってよい。起伏する砂地に椅子や机は据えにくい。そこにカーペットを敷いて坐り、尻でぐりぐりと押しまわすと、尻の下がしっかり支えてくれるようになる。ワインボトルもワイングラスも卓子を据えて載せると水平を保つのが難しく、瓶が倒れてドクドク―ワーイワーイ、といった騒ぎとなる。ボトルもグラスも砂にグリッと押しこめば倒れる心配はない。やっぱり沙漠にはカーペットだ―ま、たまには砂嵐に襲われて、空とぶカーペットはありうるとしてもネ。 ◆畳みづかいのすすめ アラビアに近い北西インドはパキスタンを旅した。そこはもう本格カーペット文化地帯だった。美しい絨毯をずいぶん目のあたりに眺め歩いた。いずれも丹念な模様で埋め尽くしている。なぜこんなにきめ細やかに美しいのか。そう、床坐生活だから敷物に目が近い。眼差(まなざし)が近ければ、見られる側も美しく繊細に成り甲斐があるというものだ。それに中近東・アラベスク世界の紋様好きが加担しているのだから、絨緞はおのづから美しくなる道理である。 この「畳めるたたみ」の使いぶりを見ていると、敷き詰めカーペットの上にRug―置き敷きのカーペットを敷き足して自分の坐所を決めこんでいる。畳めるたたみの小型判は「搬(はこ)べるたたみ」でもある。自分の居場所を気軽に移すこともできる。日本のびくとも動けなくなった敷き詰めの、「畳めんたたみ」を見切って、畳めるたたみの原点「美し一便利」の床の具、坐臥具としての「畳み」づかいに立ち戻ってみたらどうだろうか。 道具学会
by ju-takukoubou
| 2009-04-09 15:29
| 住宅道具・考
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