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床を掘る その10 横井さんの横穴住居
山口 昌伴 残留日本兵・横井さんの住まい 今を去る36年前、1972年に10歳以下だった方々のために、改めて横井庄一さんを紹介しよう。 横井庄一さんは元大日本帝国陸軍歩兵第三八部隊軍曹、1944(昭和19)年2月20歳(数え年で)グアム島に進軍、同年7月21日、上陸した米軍の猛攻に敵せず敗走、1972年1月24日残留日本兵として「発見」されるまで28年間、グアム島ジャングルに潜んで生活を続けていた人。 1972年といえばすでにグアム島北部は一大観光リゾートと化し、若きピチピチギャルたちの享楽の地だったのに、横井さんは一人さびしく島の南部のジャングル地帯で生命からがら生きのび、発見されたときは当年とって48歳になっていた。 その横井さんの敗走潜伏生活、はじめは仲間三人と草葺き小屋に住んだが発見される恐怖から地下に横穴住居を構えて一人暮らしを15年。仲間2人は別の横穴住居に住んでいたが、横井さん発見の8年前、穴を訪ねたら2人並んで死んでいた。山野に食べられそうなものを求めるうち、毒に当たっての中毒死だった。 その潜伏敗残兵の栖(すみか)は横穴といっても深い地下。本当に身を隠して暮らすには土中深き地下住居でなければ気が気でなかったのである。 住空間論「床を掘る」シリーズのシメとして、生命の防御をメインテーマとする安全住居設計の極限をみつめておこう。 究極の安全住居設計 横井邸の場合、直径50cm深さ2.5mの竪穴に竹・木併用の垂直梯子で降りる。そこは這って進む狭い横穴が約3m。その入り口(降り口)側に便所穴、横穴の奥は少し広がった居所になり、上下を掘り広げた天井高1.5mほどの竈場がある。竈前に排煙の通気孔を設けてある。竪穴入り口は竹の簀子にカモフラージュの竹葉を散らして塞いだ。 なぜ深い竪穴なのか。横穴出入り口ではどうしてもみつかりやすいのだろう。なぜかがんでしか動けない低い天井だったのか。もっと楽に歩けるように掘り広げずに15年もその不便に耐えたのも、生命を守る安心感からとしかいいようがない。数年前に頓死した2名の志和・中畠邸も設計コンセプトは横井邸と同じだが、竪穴はもっと深く3.5m、横穴はもっと長く約30mでその先は崖の斜面に出る出入り口になっている。居室は奥行き3m、幅2.5mで天井高は2.2mと建築基準法施行令の天井高最低規定に適合している。 なぜ地中深層邸だったのか。地上はものすごい吸血蚊の大群がいるせいもあったようだ。 床を深く深く掘る究極の防御型住まい、それは核戦争時代の未来形を暗示してはいまいか。 参考・本文とも『グアムに生きた28年』朝日新聞特派記者団著 朝日新聞社1972年刊に準拠した。 道具学会 #
by ju-takukoubou
| 2009-04-10 10:27
| 住宅道具・考
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