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住宅道具・考34
「道具だて」の設計術 その4 長火鉢
山口 昌伴

祖母の居どころ 
 「道具だて」こそ住まいの設計術の決め手―その具体例として「長火鉢」を挙げよう。
 長火鉢の想い出は、私が幼少期をおくった故郷の家。いつも長火鉢に依りついていた祖母(おばば)の姿が脳裡に焼きついている。
 長火鉢は広い居間の片すみ、若い家族の通りみちからちょっと外れた安静なコーナーに据えられていた。日ねもす(一日じゅう)長火鉢に依りついたきりの祖母は、走りまわる孫たちをいつも見張っていた。うっかりそばを通りかかるとつかまって鼻をかまれ、爪を切られ、あげくのはてには耳そうじ。ちり紙も爪きりも耳かきも長火鉢の猫板の下に連(つら)なる小柚出しに仕舞われていた。この祖母の居どころ・長火鉢は嫁には厳しい目の光る監視塔でもあった。

老人の場所は道具で決まっていた 
 祖父の方は奥座敷に据えられた大火鉢にデンとかまえていた。その火鉢にはいつも鉄瓶が掛けられており、お客には祖父が自ら煎茶を淹(い)れていた。孫たちは、お小遣いをせびるには長火鉢の方へ寄っていったが、写真機や幻燈器など値のはるものをねだるには大火鉢の方へ行かねばならなかった。
 大火鉢、長火鉢は老人の居どころを設定し、家族間のかけひき、家事の分担、そしてコミュニケーションなど、家族間の人間関係を調整し調停する役割をしっかり果たしているのであった。
 いまは高齢社会、住まいの設計ではバリアフリー設計だとか老人室の設け方などが取りざたされているが、一家のうちには老人が昔から居た。そして、その居どころが大火鉢や長火鉢といった道具によってちゃんと設定(設計)されてもいたのであった。

長火鉢と家族関係の設計
 私はとある古道具市で、まさに祖父母が依りついていたのと同じ長火鉢を目にして無性に買いたくなった。しかし、今どきの家(私の場合も世間なみの賃貸マンション3LDK住まい)には置き場がない、のであきらめた。それを買い求めたかったのは、祖父母の依りついていた風景が懐かしかったから、ではない。
 小引出しに身のまわりの小物を仕舞っておける。炭火を電気コンロに仕替えれば酒の燗をつけて独酌もラクラク。猫板のところにパソコンを置いて―私の居どころにしたかったのである。そして、祖父母にとって孫だった私も気がつけば還暦を超えている。その私、若い家族の通りみちの外れに居すわっていた方が、お互いの助けになりあえる。老人室に「隔離」されるよりは、私は長火鉢の家族関係設計の主旨の方を採りたい口(くち)である。

乞う、ご期待!
ちょっと昔の和の住まい―その設計術:決め手は「道具だて」だった
(山口昌伴著『ちょっと昔の道具から見なおす住まいの設計術』王国社、近刊)

道具学会 
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by ju-takukoubou | 2009-04-10 10:33 | 住宅道具・考 
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