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住宅道具・考26
床を掘る その6 床下調理/揚げ板
山口 昌伴

漱石寓居の台所の床下
 愛知県の明治村に東京本郷にあった夏目漱石寓居が移築公開されている。明治37~8年作『吾輩は猫である』もこの家で書かれた。そこの台所はこの家に巣喰う鼠と吾輩との果たしあいの決戦場となった「古戦場」である(同書第五段)。最後には吾輩が敗れるのだが戦闘中には吾輩の勇ましい場面もあって、敵鼠の「尻尾を咥(くわ)えながら左右に振ると尾のみは(吾輩の)前歯の間に残って胴体は壁に当たって揚板の上に跳ね返る―」揚板って何だ。
 漱石寓居の台所を見廻すと板の間の片隅に床板の合せ目に菱形に爪掛りが彫りこんであるのが見つかる。幅8寸(24cm)の板が6枚、長さ3尺ほどのところで切ってあり、爪掛りを頼り揚げられるようになっている。当時の高床は2尺(60cm)以上、3尺(90cm)近く上がっていて、子どもなら縁の下から潜って中腰で歩けた。だから床下は風通しがよく、台所の床下は縁側からの陽も射さないので、食品保存や漬物類の醗酵保存食加工に恰好の冷暗所でもあった。
 揚板は1枚揚げれば(外せば)醤油瓶や酢、酒の瓶が取り出せ、2枚揚げれば首が入って梅干壷が扱える。3枚揚げれば肩まで入るので糠味噌桶を掻き廻せて4枚揚げれば身体が入って木炭俵や大根、葱などの取扱いができた。

床下収納の発明は明治後半に
 床を掘る。板の間から床下空間を活用する。この揚げ板は農山村の古民家などには無い。じつはこの床下収納は新しい発明。明治後半から大正時代は新興都市サラリーマンの激増期、いづれ田舎から出てきた人たちだから、食品は大量の扱いが身についていたので、狭小化する文化住宅で食品保存の場所に窮した。冷蔵庫はまだ無いので床下の冷暗所に目をつけたという次第。
 当時はまだ食材は自然体に近い形で流通し、大根や葱など根菜類もまるごと、どころか束で貰って漬物など時間をかけてバクテリアに調理させる。床下冷暗所は調理空間の延長でもあった。
 風通しのよい冷暗所に安置しておくことによって保たれるまるごと野菜などの自然体食材や、漬物・醗酵保存食などの活性体のもたらす風味が、じつは今日の日本人に残る集団的記憶としての「おふくろの味」、和の風味の正体なのである。
 和の風味の復活には、必ずしも床を掘らなくても、冷暗・通風の自然体に優しい環境がつくれればよい。さらに肝腎なのは仕込む前の、風に当てたり陽に当てたりの前処理である。そうなると、住空間全体の構えからの設計の仕直しが必要なのである。


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by ju-takukoubou | 2009-04-09 16:04 | 住宅道具・考 
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