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住宅道具・考21
床を掘る その1 蛸壺鍛冶
山口 昌伴

初対面は鍛冶屋の上半身
 佐渡ヶ島は南岸の港町を探索に歩いていた時のことである。古い町並みの看板に○○鍛冶とあって、草刈鎌や菜切包丁のペンキ絵が添えられている。包丁鍛冶かァ―とガラス戸を引く。
 コンニチワァ~と呼ばわると、人の姿は見当たらず、低い所からの声がオウと応えた。椅子・テーブルの脚元を伺うと、人間のトルソーが! トルソーは胸から上だけの胸像である。下半身の無い生きているトルソーに一瞬ギョッとした。鍛冶屋の親父、土間に穴を掘って、その底に立っているのだった。

蛸壷掘って土間を机に
 地面を掘って身を潜(ひそ)める、といえば戦争の場面を想い浮かべる。野戦の白兵戦で地べたに人の通れる深い溝=塹壕(ざんごう)や一人が入る蛸壷を掘る。塹壕・蛸壷から肩まで出して銃を撃つ。ここでは鍛冶屋さんが蛸壷に入って、手近な地表面に金床(かなとこ)の面を1寸(いっすん)(3cm)ほど出して埋め込んであり、その上で槌を打っている。ナアルホド、と私は感嘆した。
 野鍛冶は地べたに坐って仕事をしているのが普通である。床坐といっても厚さ3~4寸(9~12cm)位の坐板などを敷いて、古坐蒲団などを当てがい、片脚は立て膝にして、もう片一方で鞴(ふいご)を踏んだ。今は小型の電動送風機シロッコ・ファンをスイッチでオン・オフして、小粒のコークスの小山を赤めている。机の前で立ってやる方が楽だろう。鞴に脚を使わなくて済むようになったのだから、机にしたらどうかと鍛冶屋の親父も考えたに違いない。しかし重量を利かして打つ金床(厚さ4~5寸(12~15cm)はある鉄塊)を机上に載せて、槌でぶっ叩く力に耐える机は相当頑強に作らねばならない。それに鞴の風をコークス粒の小山の火床へ送り続けなければならない。机上に火床を設けるわけにはいかない。打ち鍛えるのは机上、でも火で赤めるのは地べた、では具合がよくない。
 そうだ! 土間を掘って、その床に立てば地表が机上面になる。金床は地面が支えればビクともしない。それに火床もコークスも地面に広げられる。

手仕事に、地面は広い机上面
 それに、頑丈この上ない鉄の机を作ったとしても、机上面の面積はあんまり広くはできない。穴を掘って自分が入れば四周には無限! といってよい机上面(作業用の床面)が広がる。材料も、中途の製品もどんどん並べてすぐ手に取れる。ひと休みするには―蛸壷に降り立つために3段ほど設けてある石段に腰掛けて一服。火床と金床を相手にする鍛冶屋の発想は同じところに行きつくらしく、私はその後九州でも蛸壷鍛冶に出会ったし、仲間に話すと各地で「見た」という情報が沢山集まった。
 手仕事にとって、椅子・テーブルの作業で一番困るのは机上面の面積が限られていて、材料や工具を置くと仕事する面積が狭められ、仕事が広げにくいことである。たとえば衣服、ことに和服などにミシンを使うには、周りがよっぽど広くないと仕事が広げられない。ならば床を掘って蛸壷ミシン、掘りミシン、というのはどうだろう。

道具学会 
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by ju-takukoubou | 2009-04-09 15:57 | 住宅道具・考 
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