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工務店設計者の日々⑪
陰翳礼讃
株式会社青木工務店 設計パートナー
薮田 紀子 ■ Noriko Yabuta

陰翳と生活美
 谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を読んでみた。
 陰翳礼讃・・・暗さとはネガティブなものとして捉えられるし、現在の都市や生活にはあまり必要とされない言葉だけれども、美しい響きがそこにはある。
 近代の照明や設備機器の変化が、事物に対する感じを変えてしまったこと、日本家屋や工芸品・芸能などを例にあげ、私達の祖先が暗がりの中にも美を求める傾向があること、そして文明の利器を取り入れてきたことに異論はないが、陰翳の世界を失いつつあるということ、などが書かれていている。
 漆器の美しさについて、「蝋燭の灯のようなぼんやりした薄明かりの中に置いてこそ発揮される・・・」「金蒔絵を施したものなどは、明るいところで一度に見るものではなく、暗い所でいろいろの部分が、ときどき少しずつ底光りするのを見るように出来ている・・・」とある。思わずうなってしまう。試してみたいが、豪華絢爛な漆器がないので残念。味噌汁については「いつもはなんでもなく食べていたあのどろどろの赤土色をした汁が、蝋燭のあかりの下で、黒うるしの椀に澱んでいるのを見ると、実に深みのある、うまそうな色をしているのであった」。なんだかそれ相当の暗さをたたえた和室で、味わってみたい。明るい照明の下での食事に慣れている現代人には、見過ごしてしまうような美しさかもしれない。

今の暮らしで礼讃できるものは?
 厠については、「日本の厠は精神がやすまるように出来ている。それらは必ず母屋から離れて、青葉の匂や苔の匂のして来るような植え込みの蔭に設けてあり、廊下を伝わって行くのであるが・・・」こんなトイレには縁がないが、想像は広がる。
 静けさや空気感まで伝わってくる陰翳は、やはり古寺にでも行かないと出会えないのだろうか? 自分の身近な記憶の中にある暗さのある場所といえば、昔の祖父母の家ぐらいだろうか? 確かにトイレは長い廊下の端にあったし、和室と和室に挟まれた廊下はいつも薄暗かった。今の家にはもう存在しない暗さだ。風雅や花鳥風月などとは縁遠い田舎の家だったが、和室から見る庭先は、薄暗さとは対照的に緑が映える庭だった。
 この『陰翳礼讃』、昭和の初めに書かれたものと記されてあるが、その時代にして陰翳の世界が遠のいているのなら、夜でさえも暗さを感じることが出来ない今は何を礼讃したらいいのだろう。現代に陰翳の美しさがなくとも、闇の中に浮かぶ美しいものを見分けられる力は残っていると思いたい。
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by ju-takukoubou | 2009-04-09 13:28 | 工務店設計者の日々
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